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バレンタインなのでSS投稿

「義時さん! 今日は何の日か知ってますか?」
サハルは会った途端にそんなことを聞いてきた。
「ローマ時代の女神ユーノーの祝日で、さらにキリスト教の司祭だったヴァレンティヌスの処刑日」
「なんでそこまでわかっていてバレンタインデーって言わないんですか……」
サハルはガサゴソと荷物を漁るとなにやら包装された箱を出してきた。
「日本の方はキリスト教徒じゃなくてもバレンタインデーを祝うと聞きました。私も市販されているチョコレートを買ってきてみました」
「お、ありがとな」
サハルから丁重に箱を受け取るとそれを潰さないように仕舞う。
「ちなみにどういうチョコなんだ?」
「なんかアルコールがちょっと入ってるチョコみたいです。それ以外は普通のチョコレートですよ。注意書きに書いてありました」
ふむ、嫌な予感がしてきた。
「サハル、お前もしかして沙杞にチョコレート渡してないか?」
「え? 駄目なんですか?」
いわゆる友チョコと言われるやつだ。私にそれを規制する権力はないが……いやな予感がしていた。
「沙杞は酒にめっぽう弱いんだ……」

急いで寮にいるであろう沙杞にSPSでコールする。
「頼む……間に合ってくれ」
私は神に祈りながらつぶやく。サハルは横で真っ青になりながら様子を見守る。
「え? 何? 義時か。どうしたの?」
沙杞はコールに応える。いつもどおりの様子である。
「サハルからチョコもらっただろ。あれの中にアルコールが入ってたみたいで……だから食わないように注意を……」
そこまで言って気づいた。SPS越しに見える沙杞の背景に湖があることを。
「お、おい。どこにいるんだ?」
「え、今から入浴に行くところだよ」
「湖にか?」
「そーだよー」
サハルが横でどうしましょ、どうしましょと動揺している。
「じゃあお風呂入るから切るね―」
「お、おい! 待て!」
それで通話は終わってしまった。サハルの方を見て、私は言う。
「サハル、わかっているな? あいつに酒を飲ませるとろくなことにならないんだ」
「今はっきりとわかりましたよ!」

我々は急いでレンタサイクルを借り、街の郊外の湖へと向かう。
「サハル、急げ! あいつが入水自殺する前に!」
「はあ、はあ、ちょっと待ってください! 私、体力には自信がないんです!」
湖の近くに着くと私はSPSを展開し、通信局のデータをクラックして、沙杞の居場所を特定する。
「五分のところだ。あとちょっと急ぐぞ」

沙杞を見つけたのはそれからすぐのことだった。
「あ^~生き返るわ―」
沙杞は水に半分浸かり、なにやら言っている。
「アホか! おい、サハル、お前なんとかしろ!」
「え? そんなこと言われても湖に入って連れ戻すしかないんじゃないですか?」
しょうがないなー。
「おーし、わかった。南無八幡!」
私は堤防を滑り降りると湖にどっぷり浸かり、泳いで沙杞を連れ戻そうとする。後にサハルが語ったところによると、足がつかないところもあり、結構危険だったらしい。

服を着たまま、びしょぬれの沙杞をなんとか堤防に連れて行くと私は静かに怒る。
「沙杞、しっかりしろ。死ぬところだったんだぞ!」
「え? あ、義時。ここどこ? 何してたの?」
サハルに着替えを持ってくるように頼むと私と沙杞は取り残される。
「義時、なんかわからないけどありがとね」
大体の状況を察した沙杞は小さな声でつぶやく。
「幼馴染なんだから気にすんな」
「そうだね」
私達は暫くの間、無言になる。
「義時、なんかポケットが膨らんでるけどこれはなんなの?」
「あ……」
大抵のことは気づいたときには遅いものである。チョコレートもそうであった。
「拾ったものだ。気にすんな」
「そう……」
沙杞が静かに頷くとちょうどサハルが帰ってきた。
「近くの家の人に貸してもらいましたー。あれ? どうかしたんですか?」
私は何事もなかったかのようにその場で着替えを済ませ、街へと戻る。
サハルには黙っておこう。どうやら入水未遂事件のせいで忘れてるようだし。
私は寮に戻ると一応確認のため、箱を開ける。
「ん?」
新しく開発したプログラムのコードを入れておきます。サハルより?
私はSPSでコードを読み取るとプログラムを起動する。
「お、すごいなこれは」
簡単なホログラムでハッピーバレンタイン! と箱の上に表示されている。
箱がぐちゃぐちゃじゃなければもっと見栄えは良かっただろう。
「サハルにお礼言わなきゃな。あ、でも言うと思い出しちまうか」
私は一人、悶々としながらバレンタインデーを終えるのだった。

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